趣味と修業を兼ねて鉄を鍛える「鍛造」をしてるわけなのですが、火床に入れた鉄の色の観察というのは随分難しいものです。
黒から橙へ、そして時に白く輝く“鉄そのものの色”を見る鍛冶の世界では、鉄がいま何度にあるのかを知る最も確かな指標は温度計ではなく、職人の目でとらえる色の変化です。これは古来から受け継がれてきた、鉄との対話のお作法と言えます。
鉄は加熱されると、
約500℃で薄い赤色を帯び始め、
700℃を超えるころには明るい赤に変わります。
900℃付近ではオレンジ色、
1000〜1100℃では強い黄色の輝きを放ちます。
そして1200℃を超えると白に近い光となり、もうまぶしいったらないわけです。
こうした色の変化は、鉄の結晶構造が熱によって変態し、光の反射や放射が変わることで起きるそうで、マジ鍛冶職人はこの微妙な色の違いを読み取り、今叩くべきか、叩かざるべきかを判断しています。
なぜここまで温度を正確に読む必要があるかというと、それは鉄の性質が温度によって大きく変わるためです。
例えば赤みに戻り始めた温度では粘りが弱く、過度に叩くと割れやすくなります。
一方、黄色から白に近い高温では柔らかくよく伸びますが、熱しすぎると粒が荒れ、ともすれば溶けてしまいます。
普通の鉄ならまだあきらめもつきますが、玉鋼を溶かしちゃったらとても残念なので細心の注意をはらいます。
鍛造の中でもとりわけ派手なのが「折り返し鍛錬」です。
玉鋼や鋼材を何度も折り返し、叩き、伸ばし、再び折り返す。この工程を繰り返すことで不純物が取り除かれ、層が形成され、金属組織が均一に整えられます。折り返しは単なる手間ではなく、鋼の靭性と粘り、さらに美しい地肌を生み出すために欠かせない工程なのです。
折り返し鍛錬を行う際にも、鉄の色は非常に重要な指標になります。折り返した部分が均一に馴染む温度。ぼくの親方は「沸かす」と言っていますが、鉄がバチバチと火花を放つほどの高温に熱したところで一気にハンマーを振り、上下の鉄をくっつけるわけです。
もう何度も一人で失敗しています。難しい。
鉄の鍛造は、科学と感覚が重なり合う世界です。
炉の前に立って見える色は、ただの光ではありません。数百度から千度を超える鉄が発する“声”であり、それに応える職人の経験と技術の結晶です。
色を読むという古来の知恵と、折り返し鍛錬という緻密な技術。その二つが交わるところに、強く、美しく、そして長く使える鉄が生まれていきます。
日々練習。