観光関連産業の厳しさは以前から言われている通りです。
新型コロナウイルスの感染拡大により、夏休み中のGo To トラベル事業が不発に終わり、お盆の帰省ラッシュも殆どなく、「何とか夏休みでV字回復を!」と期待していた観光産業にとっては、絶望的な状況となりました。
これから観光関連産業の倒産ラッシュが始まる危険性が急速に高まっています。
今回は大手旅行代理店の一つ、HISの経営状況について取り上げたいと思います。
同社の直近3年の業績は以下の通りです。
【売上高】
2017年10月期:6,060億円
2018年10月期:7,286億円
2019年10月期:8,085億円
【営業利益】
2017年10月期:159億円(利益率:2.6%)
2018年10月期:180億円(利益率:2.5%)
2019年10月期:175億円(利益率:2.2%)
【当期純利益】
2017年10月期:133億円(利益率:2.2%)
2018年10月期:110億円(利益率:1.5%)
2019年10月期:122億円(利益率:1.5%)
【資産の状況(2020年4月末時点)】
自己資本比率:18.5%
現預金残高:1,243億円(2019年10月期時点では2,192億円)
HISの特徴としては、取扱額に占める海外関連比率の高さが挙げられます。
直近の取扱額に占める海外・外国人関連の比率は89%。
この部分が3月以降は限りなくゼロに近い状態となり、またこの状況がいつまで続くか分からない状況となっているのです。
HISが発表した現預金残高の見通しは、売上高の急減や旅行前受金の返金、新社屋の購入等により、HIS単体では40億円のマイナス(現金不足)になるとの試算となっています。
HISも新規資金調達として3銀行と合計330億円のコミットメントラインを契約するなど、必死の資金繰りを行なっています。
また旅行事業のリソースを国内旅行へ配置するとともに、現在の国内店舗258店舗の3分の1にあたる80店舗から90店舗程度を閉鎖するとの方針を発表しました。
ただ、HIS以外の大手旅行代理店については、鉄道各社の出資を受けており、鉄道各社も厳しい経営状況ながらも、一定の支援は受けられるのではないかと考えられますが、HISについては独立系ということで、現状では支援を受けられる見込みはありません。
もちろん、資金繰りが苦しくなれば、現状では1,000億円以上の時価総額となっており、増資等の選択肢もあるため、決してすぐに倒産する訳ではありませんが、HISのような超大手の優良企業でさえも、これだけ厳しい状況なのです。
新型コロナウイルスについては決して楽観視できませんが、経済を回さないと日本の観光産業は残り数ヶ月で壊滅的な状況となります。