彼女たちの身体は「楽器」ではない 〜U-15年代特有の不協和音とアフォーダンス〜
春の訪れとともに、グラウンドには少しぎこちない空気が流れることがある。
4月。新しいシーズンが始まり、一つ学年が上がった選手たち。その中で、昨シーズンまでは軽やかにボールを扱っていた選手が、まるでサイズの合わない靴を履いているかのように、ボールコントロールを乱す場面に出くわすことがある。
いわゆる「クラムジー(Clumsiness)」と呼ばれる現象だ。
第二次性徴期を迎えるU-15年代の女子選手は、短期間で身長が急激に伸び、骨格や筋肉の付き方が劇的に変化する。重心の位置が変わり、手足の長さの感覚が脳内の身体イメージとズレてしまう。
これまで、指導現場ではこれを「一時的なスランプ」や「技術の低下」と捉え、以前のようなキレのある動きを取り戻させようと、反復練習でフォームの修正を図ることが多かった。
しかし、エコロジカル・ダイナミック・アプローチのレンズを通して彼女たちを見た時、私たちの解釈はガラリと変わる。彼女たちは「下手になった」のではない。「新しい身体(システム)に再適応しようと必死にチューニングしている最中」なのだ。
このアプローチでは、行動は「個体(選手)」「環境」「課題(タスク)」の3つの制約の相互作用によって生まれると考える。
U-15年代において最も激しく変化するのは、この中の「個体」、つまり選手自身の身体だ。
昨日まで「あと一歩で届いたボール」が、今日は「足が長くなった分、ボールを蹴りすぎてしまう」かもしれない。あるいは、体重が増えたことで、急激なターンに対するブレーキのかかり方が変わるかもしれない。
これを、熟練したピアニストが突然、鍵盤の幅も重さも違う未知のピアノを弾かされている状況だと想像してほしい。
かつての弾き方(フォーム)を強要すれば、音は割れ、指はもつれるだろう。必要なのは、古い弾き方を反復することではなく、新しいピアノ(身体)の特性を探り、その楽器から最高の音色を引き出すための新しいタッチ(運動解決策)を発見することだ。
私たちのアカデミーでは、この時期の選手に対して「フォームの矯正」を行わない。
「以前はもっとスムーズに蹴れていたぞ」「身体が開いているぞ」という指摘は、彼女たちを混乱させるだけだ。彼女たちは、今の新しい身体でどうすればボールを思った場所に運べるのか、その固有のアフォーダンス(行為の可能性)を必死に探索している。
だから私たちは、失敗を咎めない。
ボールタッチが大きくなっても、パスがズレても、「今はチューニングの期間だ」と理解しているからだ。
その代わり、トレーニングでは多様な動きを引き出す環境を用意する。例えば、様々な大きさや重さのボールを使ったり、バランスの取りにくい不安定な足場でのプレーを遊び感覚で導入したりする。これにより、彼女たちは無意識のうちに自分の身体の重心や、四肢の感覚をアップデートしていく。
ある長身の選手は、急激な成長でアジリティ(敏捷性)を失いかけた際、以前のような細かいステップではなく、長いリーチを生かした懐の深いボールキープという新しい武器を見つけ出した。
私たちが古いフォームに固執して指導していたら、この新しいスタイルは生まれなかったかもしれない。
この年代の「不協和音」は、成長の証であり、新しいハーモニーが生まれる前触れだ。
指導者がその視点を持つだけで、選手たちの表情から焦りが消え、代わりに「新しい自分」を使いこなそうとする好奇心が宿り始める。
(第2回 完)