一般社団法人 全国個人事業主支援協会

COLUMN コラム

  • 変容する少女たちと「生きた環境」のデザイン 〜トップクラブアカデミーにおけるエコロジカル・アプローチ実践録〜

【連載コラム 第3回】

カオスを愛する 〜制約主導型アプローチ(CLA)によるトレーニングデザインの基礎〜

トップチームの華麗な連携プレーを見慣れた人が、私たちU-15のトレーニングを見ると、最初は眉をひそめるかもしれない。
「なぜ、もっと綺麗にパスを繋ぐ練習をしないのか?」
「なぜ、こんなに狭いエリアで、団子サッカーのようなことをさせているのか?」
私たちのグラウンドには、常に「カオス(混沌)」がある。
ボールホルダーには四方八方から敵が襲いかかり、パスコースは常に限定され、考える時間はコンマ数秒しか与えられない。
これこそが、私たちが実践する「制約主導型アプローチ(Constraints-Led Approach:CLA)」の核心である。
「反復練習」から「反復なしの反復」へ
従来のトレーニングでは、まずドリル練習で「型」を身につけ、それを徐々にゲーム形式に近づけていくという手法が一般的だった。
しかし、CLAではその順序を逆転、あるいは融合させる。最初から、ゲームの複雑さ(カオス)を含んだ環境を設定するのだ。
ここで重要なキーワードが「Repetition without Repetition(反復なしの反復)」だ。
サッカーの試合において、全く同じ状況というのは二度と訪れない。だから、全く同じ動作(フォーム)を反復することは、実戦的ではない。
私たちが目指すのは、同じ「課題(ゴールを奪う、ボールを運ぶ)」を反復しながらも、その都度異なる「解決策(動き)」を引き出すことだ。
魔法の杖としての「制約」
そのために私たちが用いるのが「制約」というツールだ。
ある日のトレーニングを紹介しよう。テーマは「中央突破」。
しかし、コーチは「中央を攻めろ!」とは一言も言わない。代わりに、ピッチを縦に3分割し、「中央のエリアでボールを受けた時だけ、敵の守備者はボールを奪いにいけない(ただしパスコースは塞いでいい)」というルール(制約)を設ける。
すると何が起きるか。
選手たちは、安全地帯である中央エリアにボールを入れることのメリット(アフォーダンス)を強烈に知覚するようになる。サイドの選手は、中央へ斜めのパスを通そうと必死にコースを探し、中央の選手は、パスを受けるためのタイミングを計るようになる。
言葉で指示しなくても、ルールという「制約」が、選手たちの意識を中央へ向けさせ、そのエリアを攻略するための創造的なプレーを誘発するのだ。
生きた環境をデザインする
私たちは、グリッドのサイズを1メートル単位で調整し、人数比を変え、得点ルールを操作する。
横幅を極端に狭くしてプレッシャーを強めたり、得点後にすぐに守備に戻らなければマイナス1点というルールで切り替え(トランジション)を促したりする。
そこにあるのは、コーチの怒鳴り声ではなく、選手たちが環境に適応しようとする必死の思考と、その結果として生まれる「生きたプレー」だ。
綺麗な列を作って行うシュート練習の方が、見た目は美しいし、指導した気分になれるかもしれない。
しかし、カオスの中で泥臭く、しかし確実にゴールへの道筋を見つけ出す彼女たちの姿こそが、週末の公式戦で起こる予測不能な事態を乗り越える力を証明している。
私たちはカオスを排除しない。カオスを愛し、その中で踊る方法を学ばせているのだ。
(第3回 完)

この記事をシェアする

  • Twitterでシェア
  • Facebookでシェア
  • LINEでシェア