長らくサーバーサイドJavaScriptの王者として君臨してきたNode.jsに、強力なライバルが登場しています。DenoはNode.jsの生みの親であるRyan Dahl氏が「Node.jsの設計で後悔していること」を解消するために作り、BunはJarred Sumner氏がパフォーマンスを極限まで追求して開発しました。2024年現在、3つのランタイムはそれぞれ成熟度を増し、本格的な選定議論が必要なフェーズに入っています。
筆者はこの1年間、実プロジェクトで3つのランタイムを使い分けてきました。その経験をもとに、各ランタイムの特性、性能特性、そして適切な選定基準を整理します。
Node.jsは2009年の登場以来、膨大なエコシステムを築き上げてきました。npmには200万以上のパッケージが公開されており、これは他のどの言語エコシステムも追随できない規模です。CommonJSモジュールシステムに始まり、現在はESModulesもサポートし、後方互換性を維持しながら進化を続けています。V8エンジンを採用し、安定性と互換性を最優先にする設計思想は、エンタープライズ環境での信頼性に直結しています。
Denoは「セキュリティ・バイ・デフォルト」を掲げ、パーミッションシステムを搭載しています。ファイルアクセスやネットワークアクセスを明示的に許可しなければ実行できない設計は、サプライチェーン攻撃が増加する現代のセキュリティ要件に合致しています。TypeScriptのネイティブサポート、URLベースのモジュールインポート、Web標準APIの採用など、モダンな開発体験を提供します。また、Deno 2.0からはnpmパッケージとの互換性が大幅に向上し、既存のNode.jsエコシステムの資産も活用できるようになりました。
Bunは「すべてを高速に」という明確なビジョンのもとに開発されています。JavaScriptCoreエンジン(Safariと同じ)をベースにZig言語で実装されており、起動速度とスループットの両方でNode.jsを大きく上回ります。パッケージマネージャー、テストランナー、バンドラーが組み込まれたオールインワン設計は、ツールチェーンの管理コストを削減します。Node.js互換性も高く、多くのnpmパッケージがそのまま動作します。
コールドスタートの速度は、CLIツールやサーバーレス環境で特に重要です。Bunは起動速度において圧倒的な優位性を持ち、Node.jsの約4倍の速さで起動します。Denoはv2以降で大幅に改善されましたが、それでもBunには及びません。ただし、長時間稼働するサーバーでは起動速度の差は実質的な影響が小さいことも事実です。
HTTPリクエストの処理性能は、Webサーバーとしての用途において最も重視される指標です。Bunは内蔵HTTPサーバーのスループットが極めて高く、単純なJSON応答のベンチマークではNode.jsの2〜3倍のリクエスト処理能力を発揮します。ただし、実際のアプリケーションではデータベースアクセスや外部API呼び出しがボトルネックになることが多く、ランタイムの差は相対的に小さくなります。
Bunのパッケージマネージャーは、npmやyarnと比べて劇的に高速です。筆者のプロジェクト(依存パッケージ約500個)では、npm installに約45秒かかるところ、bun installは約5秒で完了しました。CI/CDパイプラインでのビルド時間短縮に大きく貢献します。
性能だけでランタイムを選定するのは危険です。実プロジェクトでは、エコシステムの成熟度と互換性が開発効率を大きく左右します。
Node.jsのエコシステムは圧倒的です。Express、Nest.js、Prisma、Next.jsなど、フレームワークやライブラリのほぼすべてがNode.jsを前提に開発されています。問題が発生した際の情報量も桁違いに多く、Stack Overflowやブログ記事でほぼ確実に解決策が見つかります。
Denoは独自のエコシステムを持ちつつ、npm互換性の向上により既存パッケージも利用可能です。しかし、一部のNode.js固有APIに依存するパッケージでは互換性の問題が発生することがあります。Freshなどの独自フレームワークも魅力的ですが、プロダクション実績はまだNode.js系フレームワークに及びません。
Bunは高い互換性を謳っていますが、ネイティブアドオンやEdgeケースで互換性の問題に遭遇することがあります。特に大規模なモノレポや複雑な依存関係を持つプロジェクトでは、予期しない挙動に出くわす可能性があります。
現時点での筆者の使い分けは以下のとおりです。プロダクション環境のWebサーバーにはNode.jsを使い、新規の個人プロジェクトやプロトタイプにはDenoを採用し、開発環境のスクリプト実行やテストランナーにはBunを活用しています。この組み合わせにより、安定性・モダンさ・速度のバランスを取っています。
ランタイムの選定は技術的な優劣だけでなく、チームのスキルセット、プロジェクトの規模と寿命、運用体制を総合的に考慮して判断すべきです。3つのランタイムはそれぞれ異なる強みを持っており、適材適所で使い分けることが最善の戦略と言えるでしょう。