一般社団法人 全国個人事業主支援協会

COLUMN コラム

  • 令和版「貯蓄から投資へ」
物価上昇と停滞する賃金水準に日本中が苦しむ中、岸田文雄首相が掲げている政策が「資産所得倍増計画」です。この「資産所得倍増計画」については、戦後の池田勇人内閣の「所得倍増計画」のイメージと重ねる方が多くいるようですが、実は全くの別物です。岸田内閣の「資産所得倍増計画」は、以前から言われている「貯蓄から投資へ」を言い換えたものと考えていただくのが相応しいのではないかと思います。
それでは何故、「貯蓄から投資」というスローガンが繰り返し叫ばれるのでしょうか。日本銀行の「資金循環の日米欧比較」によると、日本の家計の54%が現預金となっており、米国(13%)やユーロ圏(34%)と比較すると圧倒的に貯金偏重のポートフォリオとなっています。米国やユーロ圏と比較して投資に資金を回してこなかった結果、金融庁の分析によると、日本の金融資産はこの20年間で1.4倍(投資リターンは1.2倍)にしか増えていません。米国が3.4倍(投資リターンは2.6倍)、英国が2.3倍(投資リターンは1.6倍)と比較するとその差は明らかです。日本人が怠けている訳では決してなく、多くの国民が一生懸命働いているにも関わらず、資産運用の差で豊かさに大きな差が生じてしまっているのです。こうした現状を踏まえて、貯蓄偏重から投資へと方向転換を図ろうとしているのです。
しかし、こうした事実があるにもかかわらず、投資に対しては依然として多くの方がネガティブなイメージを抱えています。日本証券協会の調査によると、60年前から株式や投資信託の保有率は増えておらず、約70%の国民が投資をせず関心さえ示さない状況となっています。そして投資をしない理由としては「損する可能性がある」、「知識がない」、「ギャンブルのようなもの」、「価格変動に神経をつかのうが嫌」といったネガティブなイメージによるものが多くを占めています。
岸田内閣が打ち出した資産所得倍増プランでは、いくつかの方向性が打ち出されています。主な内容は「NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)の充実」、「預貯金を投資に誘導する新たな仕組みの創設」、「金融リテラシーの向上」、「年金額等の見える化」、「適切な助言・勧誘・説明を促す制度整備」などが挙げられます。これらの施策の中で、資産所得倍増プランの最初の柱になりそうなのが、「NISA、iDeCoの充実」だと思います。具体的にはNISAの恒久化や年間拠出額の上限を大幅に引き上げることなどが考えられます。またiDeCoについては、加入対象年齢を現状の65歳未満から引き上げるなどの改革を検討しているとも報道されています。これらは「貯蓄から投資へ」を後押しするものとなると考えられます。
ただそれ以上に重要なのは、金融教育の充実だと考えます。NISAやiDeCoについては利用している方は一部であり、制度を拡充しても裾野は広がることはないのではないかと危惧しています。何故ならば、制度を拡充しても投資へのネガティブなイメージは変わることがなく、70%の国民が投資に関心を持たない状況が続いてしまう可能性が高いからです。より多くの国民に投資の恩恵を享受していただくためにも、金融教育を推進し、資産形成を実践できていない人々の意識醸成を促す必要があります。
その中で重要なポイントは「投資はギャンブルではない」というものです。大切なのは「長期的な視点で資産形成を行うこと」、例えば計画的な投資信託への積み立てなどを継続することです。金融庁によると、つみたてNISAで20年間、毎月3万円、年利3%で積み立てをした場合には、最終的に984.9万円となり、タンス預金をした場合(720万円)と比較すると1.37倍になるとのことです。それほど大きなリスクをとらず、年利3%という現実的なシナリオでもこれだけ大きな差がつくのです。果たして日本人の間で「貯蓄から投資へ」が根付くのか。岸田内閣の本気度が試されるところです。
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東葛 コンサルティング

投資銀行にてM&Aアドバイザリー業務、PE(プライベート・エクイティ)業務に従事していました。 経済、投資等についてのアドバイスを行っています。

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