1、強い金融引き締めで世界景気の停滞
歴史的な物価上昇(高インフレ)が米国市民の生活を直撃しています。6月のCPI(米消費者物価指数・エネルギー及び生鮮食品を含む)は前年比9.1%の上昇となっており、1981年以来40年ぶりに9%の大台に乗っています。直近8月の消費者物価指数も前年比8.3%と、依然として高止まりしており、米国市民の生活への影響は大きなものとなっています。
こうした中、米連邦準備制度理事会(FRB)は、9月20日、21日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催します。通常、3・6・9・12月の会合では、FOMCメンバーによる最新の経済見通しや、メンバーが適切と考える「政策金利水準の分布図(ドットチャート)」が公表されます。直近のCPIが予想を上回る伸びとなり、市場で一段の大幅利上げが見込まれる中、金融政策の新たな手がかりが示されることになります。
そうした今回のFOMCの注目点は以下の通りです。まずは利上げ幅についてですが、これまで楽観論が広がる中、大方の予想は50ベーシスポイントの利上げとなっていましたが、8月の米CPIの結果から75ベーシスポイントの可能性が高まっており、一部では100ベーシスポイントの記録的な利上げも予想されています。FOMC声明では、雇用は堅調で失業率は低く、インフレは高止まりしているとの見解は維持されることになると考えられますが、パウエルFRB議長はじめとするFRB高官の最近の発言を踏まえると、タカ派色が多少強まることも想定されます。
次にドットチャートについてですが、FRBメンバーが適切と考えるフェデラルファンド金利の水準は、6月時点において、2022年末が3.375%、2023年末は3.75%、2024年末は3.375%、長期は2.5%となっていました(いずれもドットチャートの中央値)。市場では今回、この中央値がどの程度、上方修正されるかが焦点となっていますが、おそらく2023年末時点の中央値は4%を超えてくると予想しています。
いずれにせよ利上げが今後も中長期にわたり継続され、金融環境が引き締まる中、年末にかけて内需は一段と抑制され、今後景気は相当停滞する可能性があります。このような金融引き締めによる景気後退リスクの高まりは、米国に限らず世界的な流れとなっています。
2、米利上げで始まった資金流出・債務危機を引き起こすドル高
前述した金融引き締め・利上げの動きは、コロナ禍への対応を目的とする世界的な金融緩和によって「カネ余り」の様相を強めてきた国際金融市場を取り巻く環境を変化させるとともに、世界的なマネーの流れに影響を与えています。特に、経済のファンダメンタルズが脆弱な新興国においては、資金流出の動きが強まるなどの影響が懸念されています。
実際、FRBのQT加速及び大幅利上げを背景とするドル高の動きを反映して、新興国ではドルに対する通貨安が進んでいます。例えばインドでは通貨ルピーの相場が1ドル=70ルピー台まで下落しており、ドルに対して過去最安値圏で推移しています。また東南アジアのフィリピンやタイ、南米の地理などでも通貨安が続いています。通貨安は、輸出の増加につながるといったメリットが期待される一方で、輸入品の価格を押し上げることでインフレ圧力が高まるといったデメリットがあります。また、ドル建ての債務が膨らむことで返済負担が増加し、新興国の経済に大きな打撃となる危険性があります。スリランカでは借金を重ねて債務が拡大するとともに外貨不足と通貨安も重なって「破産宣告」をするといった事態に陥ってしまいました。
FRBによる利上げ実施をめぐっては1990年代にメキシコやブラジルなど中南米、タイやインドネシア、韓国などアジアにおける通貨危機を招いたほか、その後にロシア経済危機に至る一因となったとみられ、国際金融市場では今回も新興国が同様のリスクにさらされることも警戒されています。
新興国にとってはようやくコロナ禍による景気悪化から回復してきたタイミングです。そうしたタイミングでアメリカの利上げによって自国での利上げを迫られることで、新興国経済にとっては大きなブレーキとなるのとともに、財政状況も悪化していく可能性が高くなっています。新興国は世界経済を成長させるドライバーとしての力があるため、その景気が減速すること、また社会不安や政治不安が起きてそれが波及するような事態になると、それは世界経済全体にとっての大きなリスクになります。
その他にも、欧州におけるエネルギー危機、中国バブル崩壊、地政学リスクなど様々なリスクが顕在化してきています。世界経済は今後、厳しい方向へと進んでいく可能性は非常に高いと考えます。キャッシュポジションを高めにとっておくことをお勧めします。