一般社団法人 全国個人事業主支援協会

COLUMN コラム

  • 物価の動向と日銀新総裁

 マクドナルドのハンバーガーが170円になりました。税込みの価格でみると20年前の3倍近くの値段になったことになります。庶民の味方であるマックのハンバーガーの価格ひとつをとってみても、最近の物価高の凄さがわかります。また毎月送られてくる電気代、ガス代の請求書をみて、ため息をついている人もいるかもしれません。実際、消費者物価指数のデータでは、月に1回以上購入する品目の物価は前年同月比で8%近い値上がりとなっています。ただ、こうした中にあっても、食品とエネルギーを除いた場合の消費者物価の上昇率はまだ2%に達しておらず、商品やサービスによって物価の動きに大きな跛行性があることがわかります。

 そうした中で、日銀の総裁・副総裁人事が決まりました。今後、新たな体制のもとで金融政策の運営が始まることになります。44日には黒田総裁のもとで「異次元緩和」がスタートしてから10年という節目を迎えます。新たな日銀総裁は、物価や景気のバランスをどのように図っていくのか、今回は考察していきたいと思います。

1)物価高の現状

 コロナ禍の前後で、物価に対する見方や印象が変化しています。コロナ前は、低金利・低インフレ・低成長が経済の基調であり、「低温経済」と呼ばれていました。しかし、2013年から2014年にかけては物価高が話題になり、「ステルス値上げ」も行われました。ただその半分は消費税率の引き上げによるものでした。更に遡ると、リーマンショック前の資源高騰も問題となり、物価高への対策が策定されました。しかし、当時の消費者物価の上昇率は2%台半ばであり、現在はそれを大きく上回っています。具体的には、月に1回以上購入する品目の上昇率は、前年同月比7.8%の上昇となっています。更に、購入頻度によらずすべての品目を対象とする指数でみても、前年同月比4.0%の上昇であり、30年以上前の1991年以来のものとなっています。ただし、食品とエネルギーを除く総合の指数については、昨年末の時点で1.6%の上昇にとどまっており、この3か月は横ばいで推移しています。家庭用耐久財については、値上がりが目立ちますが、総合的に見るとまだ「物価高」という状況とはなっていません。

 今後物価がどのように推移するかを見るには、輸入インフレの原因となっている資源価格や為替相場と、実体経済の動きを確認する必要があります。新聞やテレビではロシアのウクライナ侵攻が物価高の原因とされていますが、国際商品市況を見ると、昨年の春にピークアウトし、ロシアのウクライナ侵攻前の水準に戻っています。企業物価指数でみた場合の輸入物価も昨年の秋にピークアウトし、消費者物価に影響を与えることになるため、今年の夏から秋にかけては資源価格が物価を押し下げる方向に働くと見られています。また、景気の現状と先行きについても目配りが必要で、コロナ禍からの景気回復のペースが非常に緩慢であることに留意する必要があります。現在の消費と生産の水準は、コロナ前よりも5%から7%程度低く、コロナ前の水準まで経済活動の水準が戻るには相当の時間を要することが予想されます。

 日本の賃金は上昇していますが、物価の上昇に追いつけず、実質賃金は横ばいか下がっています。今春の賃上げに期待がありますが、消費の増加が物価を大きく押し上げることはないと考えられます。景気の減速の影響で外需が弱くなっており、景気の先行きに対して慎重な見方が広がっています。資源高と円安を起点とする輸入インフレの影響が剥落する中で、需要プルの物価上昇がこれまでのペースで続くことは想定しにくい状況です。値上げの春が過ぎれば、物価上昇のペースは鈍化し、食料とエネルギーを除いた総合物価指数の動きが「物価の基調」に近づくことが予想されます。

2)今後の金融政策

 新たな日銀総裁や副総裁の人事が話題になっています。この人事はサプライズ的なもので、今後の経済政策に注目が集まっています。総裁候補である植田和男氏(共立女子大学教授・東京大学名誉教授)については、「リフレ派」の支持者ではないと言われていますが、「反リフレ派」の支持者とも距離があるとされています。経済政策についての議論は、過去10年程度、「リフレ派」と「反リフレ派」という二つの考え方に分かれて展開されてきました。しかし、経済は変化するもので、必要に応じて政策を柔軟に調整する必要があります。これからの経済情勢に応じて、適切な政策をとることが重要であり、植田教授はこれまで、景気や物価の状況に応じて、柔軟に政策を調整してきたと言われています。

 202210-12月期の実質GDP成長率は前期比・年率換算で0.6%のプラスとなったものの、GDP比でみて2%近い需要不足がなお残存することが見込まれています。金融政策の運営は、特定の方向性を持たず、起こり得るリスクを点検した上で、具体的な政策運営を決定するスタンスとなると予想されています。植田教授の姿勢は、ゼロ金利政策解除時に中原伸之審議委員と共に反対票を投じ、その柔軟な政策判断姿勢が示されました。現在の経済状況からは、金融政策を引き締める方向転換する可能性は低いと予想されます。もちろん、このことは現行の金融政策の枠組みを変更しない(現状維持を続ける)ということを意味するものではありません。現時点において予断を持つことは避けるべきだと思いますが、現行の金融政策の大枠は維持したうえで、現在の金融政策の運営枠組み(長短金利操作付き量的・質的金融緩和)の部分的な手直しをして、金融政策の「出口」に向けた調整をスムーズに進めていけるようにすることが、はじめの一歩ということになるだろうと予想されます。

いずれにせよ、これまで異次元の量的緩和を行い続けてきた日銀の金融政策を、時間をかけて正常化することが求められているこれからの植田総裁。決して簡単な舵取りではありません。多かれ少なかれ市場が混乱することは不可避だと思います。私たちの資産を守るためにも今後の金融政策の動向を注視する必要があります。

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東葛 コンサルティング

投資銀行にてM&Aアドバイザリー業務、PE(プライベート・エクイティ)業務に従事していました。 経済、投資等についてのアドバイスを行っています。

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