【大物政治家には数の論理で対抗】
また、話は前後するが、官房副長官に就任するはるか前、まだ若手の議員であった頃の安倍氏であるが、こんなエピソードがある。
重鎮・野中広務が人権保護法案を国会で通過させようとしていたときである。この法案、聞こえはいいが、要は外国人にも参政権を与えようというものだ。
もしこれが実現すれば、ある選挙区で、例えば中国に有利な候補者を当選させたい、または不利な候補者を落としたい場合、その選挙区に大量の中国人を転居させ、票数をコントロールすることができるということなのだ。
この危険性に気づいていた安倍氏は、議員連盟を立ち上げて数の論理でこれに対抗した。若手議員である安倍氏の元に、重鎮である古賀誠が訪ねてきた。
「なぁ安倍くん、この法案は野中さんの最後の大仕事なんだ。なんとか妥協してくれんかのぉ」
と迫る古賀氏。これに対して安倍氏は、
「カネに関することなら妥協もできましょう。しかし、思想信条に関わることで、議員連盟のみんなに妥協してくれとは言えません」とこれを突っぱねる。
話し合いは1時間にも及ぶが、結局重鎮相手に全く引き下がらない安倍氏に、憤慨して部屋を出ていった古賀氏であった。
古賀氏の安倍批判が、最後まで止まなかったのも無理もない。
このような気骨は、東條内閣に反旗を翻し、大政翼賛を拒んだもう一人の祖父・安倍寛の血かもしれない。
カメラの前で自身の存在感を引き立てるようなことを言うだけで、何かアクションを起こすわけでもない小泉進次郎氏と、この時の安倍氏を比較すると、その力量の違いは一目瞭然であろう。