一般社団法人 全国個人事業主支援協会

COLUMN コラム

  • 2024年の経済と金融市場展望:グローバルなインフレ戦略と地域別動向

<2024年の世界経済とインフレ戦略: コロナ禍からの回復とその先の展望>

 コロナ禍を経て、世界は歴史的な高インフレ時代に突入しました。特に2024年は、このインフレとの戦いにおける重要な転換期になると予想されています。2023年の経済動向を振り返ると、FRBをはじめとする各国中央銀行が積極的な利上げを進めていました。この背景には、コロナ禍による過剰貯蓄の取り崩しやリベンジ消費などがあり、世界経済は予想以上に堅調に推移していました。

 特に注目されるのが米国経済の動向です。IMFの予測によれば、米国は2023年に2.1%の実質経済成長率を記録し、前年と同等の成績を保っています。これは、過剰貯蓄の取り崩しやリベンジ消費の効果が顕著に表れた結果と言えます。また、原油価格の沈静化も経済に好影響を与えており、ASEANやインドなどの新興国もわずか1%程度の成長率減速に留まり、全体としても堅調な経済状況を維持しています。

 しかし、欧州経済はロシア発のエネルギー危機によって大きく失速しています。その影響は、強い米国経済や新興国によって部分的にカバーされていますが、2023年の世界経済成長率は前年比0.5%低下の3%となる見込みです。

 FRBが利上げ終了をまだ宣言していない現状は、米国経済の強さを示唆しています。これは、世界経済全体にとってもポジティブなシグナルであり、2024年にはインフレとの戦いが新たな段階に入る可能性が高いと言えるでしょう。

<地域別の動向と予測>

 2024年の世界経済は、コロナ禍後の高インフレ時代からの脱却を目指す重要な転換点に立っています。IMFの予測では、世界の成長率は前年比0.1%低下の2.9%と見込まれています。コロナ前の平均的な成長率が3%台後半であったことを考慮すると、2023年から2024年にかけての成長は穏やかなものと言えますが、ハードランディングのシナリオは大きく後退しています。

 この緩やかな成長の背後には、各国中銀の引き続き緊縮的な金融政策があります。特にFRBは、インフレを抑え込むために利上げを継続する可能性が高いです。これらの政策は、企業の設備投資や住宅ローン金利、不動産市場にじわじわと影響を及ぼし、経済活動全体にタイムラグをもたらすでしょう。

 米国経済は、個人消費を中心に底堅い成長を続ける見込みです。2023年の住宅関連のインフレ率低下に続き、2024年も労働市場の過熱感が和らぎ、サービス部門のインフレ鈍化が進むことが期待されます。しかし、10月の学生ローンの返済再開による個人消費の落ち込みが予想されているものの、底堅い経済成長は続くと予測されます。

 欧州経済は引き続き弱い状況にあります。エネルギー価格の高騰、個人消費と輸出の低迷が続き、特にドイツはG7メンバーの中で唯一のマイナス成長を記録した可能性があります。フランス、イタリア、スペインなども同様に冴えない状況が予想されますが、これによりインフレ率の低下が鮮明になる可能性があります。東欧諸国では、財政出動やEUの開発資金援助の影響で経済が回復するところが多いです。ウクライナ戦争への支援疲れが指摘されていますが、景気の好転がどのような影響を与えるか注目が集まっています。

 アジアでは、中国が不動産不況や個人消費低迷など構造的な問題を抱えており、成長率が低下する見込みです。しかし、インドやASEAN諸国は高成長を維持しており、中国とは対照的な経済状況が見られます。中東では、イスラエルとハマスの紛争の長期化が懸念されていますが、原油価格の下げ止まりを背景に、多くの中東諸国で成長率の改善が予想されます。紛争が拡大し原油価格が高騰すると、中東の成長率はさらに上昇する可能性がありますが、その際は先進国やアジア新興国の成長には下押し圧力が強まるでしょう。

 南米では、アルゼンチンが特に注目されます。物価高騰の中、新大統領にハビエル・ミレイ氏が選出され、2024年はプラス成長に転じる可能性があります。しかし、ミレイ氏が主張する経済のドル化や中銀廃止などの政策は、経済の安定性に疑問符を投げかけており、その動向は投資家にとって重要な注目点です。

 2024年の世界経済は、地域によって異なる動向を示しており、投資家は地域ごとの経済状況や政策動向に注意深く注目する必要があります。各国の金融政策、市場の動き、地政学的リスクなどが経済成長のカギを握っています。

<2024年の金融市場見通し: 世界的金融政策の変動とその影響>

 2024年の金融市場は、世界各地の金融政策の動向によって大きく左右される見込みです。実態経済が弱い欧州では、2023年秋にECB(欧州中央銀行)が利上げの終了を示唆し、アジアの新興国ではインフレが比較的穏やかで、中国ではデフレの懸念が高まっています。これらの動きは、世界的に金融緩和の方向へと進む兆しを見せています。

 特に注目されるのは米国の金融政策です。インフレや景気の鈍化を背景に、2024年中にFRB(連邦準備制度理事会)が利下げに転じる可能性が高いという見方が支配的です。しかし、この金利の方向転換が市場にどのような影響を与えるかは、2024年の大きなリスクとなり得ます。

 実態経済がソフトランディング(軟着陸)を果たすとしても、FRBが望ましい金利水準に到達するには時間がかかり、2024年中は高い金利水準が続くことが予想されます。2023年には米国経済の意外な強さが金利水準の予測を繰り返し変更させました。この金利の高止まりが続けば、特に商業用不動産市場での借り換えがスムーズに行われず、破綻処理などが金融市場にショックを与える可能性があります。

 さらに、米国の長期金利は2023年11月に一時収束したものの、何らかの要因で再び上昇すれば、米国地銀の不安や株価調整などのリスクが再燃する可能性があります。これは、含み損を抱える債券ポートフォリオに対する懸念から生じる問題です。

 このように、2024年の金融市場は、世界各国の金融政策の動向とそれに伴う金利の変動に大きく依存します。投資家は、これらの要因を十分に考慮して、市場の動きに注意深く対応する必要があるでしょう。

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東葛 コンサルティング

投資銀行にてM&Aアドバイザリー業務、PE(プライベート・エクイティ)業務に従事していました。 経済、投資等についてのアドバイスを行っています。

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