一般社団法人 全国個人事業主支援協会

COLUMN コラム

  • トランプ政権の関税政策と経済への影響―個人投資家が押さえておきたい視点

2025年1月、ドナルド・トランプ氏が再びアメリカ大統領に就任しました。2016年に「アメリカ・ファースト」を掲げて初めて政権を握ったときから一貫して、自国の産業や労働者を守るという保護主義的な政策を打ち出してきましたが、今回の政権でもその方針は揺らいでいません。とりわけ注目されているのが、「関税政策」の再強化です。

アメリカが世界最大の消費国である以上、その貿易政策が国際経済に与える影響は極めて大きくなります。実際、市場もトランプ大統領の発言や政策の一つひとつに敏感に反応しています。本記事では、そもそも関税政策とは何か、そしてそれが経済や金融市場にどのような影響を与えているのかをわかりやすく解説し、個人投資家としてどのような点に注意すべきかを考えていきます。

 

1、関税政策とは?――国家の「入口」で行われる経済調整策

関税とは、外国から輸入される商品に対して政府が課す税金のことです。この税金を通じて、政府は外国製品の価格を引き上げ、国内製品との価格競争を調整します。

目的は複数ありますが、主に自国の産業を守ること、財政の一部として税収を確保すること、そして外交交渉において有利な立場を築くためのカードとして使われることが挙げられます。

トランプ大統領はこの関税を、単なる税収手段ではなく、国際交渉や国家戦略の中核に位置づけている点に特徴があります。今回の政策でも、それははっきりと表れています。これまでのような特定の国や品目に限定するのではなく、「すべての国、すべての輸入品」に対して関税を課すという姿勢を示しています。これは、これまでの国際貿易体制から見ても極めて異例のアプローチと言えるでしょう。

 

2、関税が経済にもたらすメリットとデメリット

関税は一部の産業にとっては保護的な恩恵をもたらしますが、同時に広範な経済主体にとってはコストの増加という負担ももたらします。

トランプ政権が掲げる「アメリカの労働者・農家・製造業を守る」という大義は、国内産業にとっては心強く聞こえるかもしれません。実際、安価な外国製品との価格競争が緩和されることで、雇用の維持や利益の確保につながる可能性があります。

しかし一方で、輸入品の価格が上昇することによって消費者の生活コストが増加します。2025年の一律関税導入により、アメリカの全世帯で年間約5万6,000円の家計負担が増えるという試算も出ています。また、企業にとっては調達コストの上昇や供給網の再編が必要となり、利益圧迫につながる可能性も高まります。特に自動車産業や小売業など、輸入に依存する度合いが高い業種は影響を受けやすいと見られています。

 

3、2025年のトランプ大統領の関税政策――一律関税と個別追加関税の併用

2025年に就任したトランプ大統領は、再び関税政策を強化する方針を明確にしました。その中心となるのが、すべての輸入品に対して一律10%の関税を課すという施策です。これは、従来の貿易体制では想定されていなかった規模であり、全方位型の保護主義とも言えるでしょう。

さらに個別の国々に対しても、追加の関税措置を講じています。たとえば、メキシコとカナダに対しては、2025年2月4日からすべての輸入品に対して25%の追加関税が課されました。この背景には、麻薬や不法移民の流入を抑えるという政治的意図があるとされています。

中国に対しても10%の追加関税を準備中で、特に違法に製造された麻薬性鎮痛薬(フェンタニルなど)の流入を問題視している点が特徴的です。しかも、今後さらに関税率を引き上げる可能性も示唆されています。

日本にとってもこの動きは他人事ではありません。特に自動車や自動車部品への関税が強く意識されており、もし25%の関税が課されれば、日系企業の利益に大きな影響を及ぼすことになります。2023年時点で、日本からの自動車関連輸出はアメリカの輸入総額の3割以上を占めており、その規模の大きさを考えれば、関税が日本経済に与えるインパクトは無視できません。

 

4、株価・為替・商品市況への影響――市場の警戒と不安定化

トランプ政権の関税政策は、2025年に入ってからすでに市場に強い影響を与えています。2月28日には、ニューヨーク株式市場で主要株価指数が大幅に下落しました。これは、カナダおよびメキシコに対する追加関税の発動が正式に発表された直後のタイミングでした。市場は、貿易の停滞や企業利益の減少を織り込み始めたと考えられます。

その影響は日本市場にも波及しました。日経平均株価は3月初旬にかけて大きく調整し、自動車関連株が軒並み下落しました。アメリカへの輸出に依存する企業が多い日本にとって、トランプ関税は直接的な業績懸念につながりやすく、投資家の売り圧力を誘発しています。

為替市場においては、「リスクオフ」の姿勢が強まり、一時的に円が買われる局面がありました。アメリカ経済の不透明感が高まる中で、円が相対的に安全資産として評価される場面が続いています。ただし、円高は日本の輸出産業にとって逆風となり、株価の下落と相まって悪循環を招く懸念もあります。

商品市場では、関税によるコスト上昇を背景に、一部の資源価格が上昇しています。特に農産物などは影響を受けやすくなりますが、同時に景気減速が予想される局面では、原油価格などは下落圧力が強まる可能性もあります。金(ゴールド)などの安全資産には資金が流入しやすく、地政学リスクと相まって投資対象としての魅力を高めています。

 

5、投資家が注意すべきポイント――柔軟性と冷静な判断が鍵

このような状況の中で、個人投資家が意識すべきは、柔軟かつ冷静な対応です。トランプ政権の関税政策は、その一声で市場のムードを変えてしまうだけの影響力を持っています。そのため、日々のニュースや政策の動きを丁寧に追いながら、投資戦略を見直すことが求められます。

とくに輸出依存度の高い企業に投資している場合は、その業績が関税によって直撃を受ける可能性があるため、一定のリスクを認識する必要があります。一方で、内需中心の企業や公共インフラ、医療、通信など、関税の影響を比較的受けにくい分野への分散投資も検討すべきです。

また、為替変動に備えたヘッジ手段を持つことや、ポートフォリオに安全資産を組み込むことも、資産を守る上で有効です。短期的な価格変動に一喜一憂せず、長期的な視点でリスクとリターンのバランスを見極める力が、今の時代にはより強く求められています。

 

6、まとめ――「関税時代」における賢い投資行動を

2025年、再び始まった「関税時代」は、個人投資家にとって試練でもあり、学びの機会でもあります。トランプ政権の動向は、単にアメリカ国内の問題にとどまらず、日本を含めた世界経済全体を巻き込む力を持っています。

情報の精度とスピードがますます重要になっている今、投資判断には常に冷静な目と柔軟な思考が求められます。大きな変化があるからこそ、的確に状況を見極め、ブレない軸を持った投資戦略を築くことが、資産を守り、育てていくための最善の方法なのです。

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東葛 コンサルティング

投資銀行にてM&Aアドバイザリー業務、PE(プライベート・エクイティ)業務に従事していました。 経済、投資等についてのアドバイスを行っています。

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