「もう限界か…」ハウス内の熱気がじわりと体にこみ上げてくる。温度計の針は30度を指し、春とは思えないほどの暑さだ。額ににじむ汗を袖で拭いながら、次々と色づくいちごを見渡す。この時期の収穫作業は、春の訪れとともに始まる格闘だ。
4月のいちご収穫は、穏やかな春の日差しと戦いながらの作業が続く。早朝5時、まだ冷え込むハウス内で一日が始まる。日が昇るにつれて気温は上昇し、昼前には30度近くまで上がる。腰をかがめる姿勢が何時間も続き、夕方には体がぎしぎしと音を立てそうになる。それでも、傷つきやすいいちごを丁寧に扱う手の動きは止められない。
「30度を超えないように」とつぶやきながら、ハウスのサイドを開けて風通しを調整する。4月の風が時折優しく吹き抜け、汗ばんだ体を癒してくれる。夜には翌日の天気予報を確認し、温度管理の計画を立てる。春の気まぐれな天候との駆け引きが続く。
疲れた手を休める時、口に含むいちごの甘みが特別に感じられる。4月のいちごは冬の寒さを越え、春の日差しをたっぷり浴びて育った味わいだ。「この季節ならではの味を届けたい」という思いが、毎日の作業の支えになる。朝市でお客様から「今年も美味しいね」と言われる瞬間や、子どもたちが笑顔で頬張る姿を思い浮かべると、自然と力が湧いてくる。
5月末までの限られた期間、いちごは春の訪れを告げる使者のようだ。温度管理との戦い、品質維持との戦い、そして自分自身との戦い。それでも、ハウスを出た時に感じる春風と、真っ赤に実ったいちごのコントラストは、この季節ならではの喜びだ。
「あと少しだ」と自分に言い聞かせながら、収穫かごを手に取る。春の訪れを告げる真っ赤な情熱を、最後の一粒まで届けたいと思っている。