一般社団法人 全国個人事業主支援協会

COLUMN コラム

  • 「湿潤環境で治す」創傷ケアの基本と、その再整理

こんにちは。

スポーツ現場や臨床現場において、創傷処置は日常的に発生する対応のひとつです。

私自身、これまで多くの外傷・皮膚損傷に対応してきましたが、改めて資料を読み直す中で、湿潤療法の意義を整理する機会がありました。

今回は、その中でも現場での判断を支えるポイントを共有します。

■ 消毒薬の“善悪”を再確認する

以前から、強い消毒薬が治癒を遅らせる可能性については知られており、私も必要最小限の使用にとどめてきました。

改めて資料を読み返す中で、「創傷部位に消毒薬を多用することで、再生に必要な細胞(マクロファージ・線維芽細胞など)までも傷つける」という点が、より科学的に明示されていたのが印象的でした。

あくまで創傷の洗浄は“水道水レベル”で十分という考え方は、現場においても、特に軽微な擦過傷や挫創への対応で役立ちます。

■ 「湿潤療法=感染リスクが高い」という誤解

「湿ったままにしておくと感染しやすいのでは?」という声は、医療者でも根強く存在します。

実際、私も過去にクライアントからその懸念を受けたことがあります。

しかし、湿潤環境では好中球やマクロファージの活性が保たれ、免疫反応がしっかりと機能するという報告があるように、乾燥環境よりもむしろ感染リスクが低いことが分かっています。

とくに1990年代のハッチソン博士らの研究では、乾燥療法よりも湿潤療法の方が感染率が低いと示されており、こうしたデータは実務の裏付けとして重要です。

■ 現場で活かす湿潤療法の指針

実際の応急処置やアスリート対応では、以下を基本にしています:

  • 傷口は水道水で丁寧に洗浄(過度なこすり洗いはNG)
  • 消毒薬は原則使用せず、再生を妨げない被覆材で保護
  • 必要に応じてハイドロコロイドやワセリンガーゼ等を活用
  • 感染兆候(発赤・熱感・滲出液の増加)に応じて医師へ連携

これは、**「細胞環境を守ることが、最も回復を早める」**という発想に基づいています。

■ まとめ:「創傷処置=急ぐ」から「支える」へ

創傷処置において、かつては「消毒・乾燥・ガーゼ固定」が基本とされてきました。

しかし、今では「体に備わった治癒プロセスをいかに邪魔せず整えるか」という視点が重視される時代です。

今回改めて感じたのは、私たち医療従事者やトレーナーは「治す」のではなく、「治癒環境を守る」ことが本質なのだということ。

技術や処置が進化しても、体の仕組みは変わりません。

だからこそ、原理原則に立ち返ることが、質の高いサポートに繋がると、再認識する良い機会になりました。

ご覧いただき、ありがとうございました。

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