一般社団法人 全国個人事業主支援協会

COLUMN コラム

  • 二重課税の矛盾──ガソリンやタバコに見る“課税のからくり”と解消されない理由

 

日本の税制において、しばしば「二重課税」という言葉が議論される。特に、ガソリンやタバコなどの物品にかかる税負担は高く、消費者の実感としても「取りすぎではないか」との声が少なくない。しかし、こうした二重課税は長年にわたって放置され、根本的な見直しには至っていない。それはいったいなぜなのか。制度的な背景や政治的・財政的な事情から、解消が困難な実態を探る。

 

 

 

二重課税とは何か?

 

 

 

まず「二重課税」とは、同一の課税対象に対して複数の税金が重複して課されることを指す。例えば、ガソリンには「揮発油税」や「地方揮発油税」が課され、その上に消費税(10%)が加算されている。問題なのは、消費税が“ガソリン本体価格”だけでなく、“すでに税がかかっている価格”に対してもかかるという点だ。つまり、「税に対してさらに税が課されている」状態にあるのだ。

 

同様の構造は、タバコにも見られる。タバコには「たばこ税」「たばこ特別税」「地方たばこ税」などが加算され、その総額に対して消費税がかかってくる。これもまた典型的な二重課税の例である。

 

 

 

制度的には合法、しかし問題は多い

 

 

 

こうした構造は「違法」ではない。むしろ、法律に則って厳密に設計された制度であり、国会で承認された税制である以上、形式上は問題がない。しかし、経済学的・倫理的に見れば、消費者に過度の負担を強いる構造とも言える。

 

二重課税が問題視されるのは、課税の公平性の観点からだ。税の基本原則には「公平」「中立」「簡素」があるが、二重課税はこの「公平性」に反するとの指摘が強い。同じ金額の商品を買ったとしても、その中に複数の税金が含まれていれば、実質的な支出の大部分を税金が占めることになる。

 

たとえば、1リットルあたりのガソリン価格が170円だとする。この中には、揮発油税約48円、地方揮発油税約5円、石油石炭税約2.8円が含まれており、そこに消費税(10%)が全体にかかる。結果として、実際のガソリン本体価格よりも税の割合が非常に高くなっている。

 

 

 

財政依存と政治的配慮

 

 

 

では、なぜこのような二重課税が見直されないのか。その最大の理由は、国・地方自治体の「財源」にある。揮発油税やたばこ税は、一般財源または特定財源として広く使われており、公共事業や社会保障、地方交付税などにも活用されている。

 

特に地方自治体にとって、タバコ税や地方揮発油税は貴重な財源だ。もしこれらを見直すとなれば、代替財源の確保が必要になるが、それは簡単なことではない。仮に税収が減少すれば、地方財政の破綻を招きかねないため、政治家や官僚も積極的に改革を進めにくいのが実情である。

 

また、国政レベルでも同様だ。2020年代に入っても、コロナ対策や高齢化社会への対応などで歳出は増える一方で、税収確保は喫緊の課題となっている。こうした中で、安定した税収源であるガソリン税やたばこ税を削減することは、政治的リスクが高すぎるのだ。

 

 

 

国民の関心の低さと、透明性の不足

 

 

 

もうひとつの要因は、国民の「税に対する無関心」や「制度の不透明さ」である。多くの消費者は、ガソリン価格やタバコの値上がりに対しては敏感だが、その内訳がどうなっているのかを理解していない場合が多い。税の構造が複雑で、明細に細かく表示されることも少ないため、課税の実態が可視化されていないのだ。

 

これにより、政治家に対する圧力も弱くなる。もし有権者の大半が、「ガソリン価格の半分以上が税金である」という事実を共有し、「二重課税はおかしい」と強く声を上げれば、制度の見直しに向けた政治的な動きも生まれるだろう。しかし、現状ではそこまでの世論形成には至っていない。

 

 

 

解消への道はあるのか?

 

 

 

では、将来的にこの問題は解消されるのだろうか。結論から言えば、現時点では「抜本的な改革」は難しい。しかし、段階的な是正措置は可能だ。例えば、消費税の課税対象から一部の特定税(たとえば揮発油税)を除外する「税抜き方式」に変更すれば、少なくとも“税の上に税がかかる”という不合理さは緩和できる。

 

実際、欧州の一部の国々では、こうした二重課税を避けるための調整が行われている。税制に透明性を持たせ、消費者に「何にどれだけ税がかかっているか」を明示する仕組みの導入も重要である。

 

 

 

結びに──問われるのは“納得感”

 

 

 

税金とは、国民が社会に貢献するための“義務”であると同時に、“合意”によって成り立つ制度でもある。したがって、そこには納得感が必要だ。今の二重課税構造が「合法」であっても、多くの国民が「理不尽」と感じるのであれば、それは制度の在り方としては健全とは言えない。

 

ガソリンやタバコという“日常の負担”に潜む税制の矛盾を、国民一人ひとりが理解し、声を上げていくこと。制度を変える第一歩は、そうした「気づき」から始まるのではないだろうか。

この記事をシェアする

  • Twitterでシェア
  • Facebookでシェア
  • LINEでシェア