一般社団法人 全国個人事業主支援協会

COLUMN コラム

  • 衆議院選挙を終えて―民意と政治の接点を問う

 

2025年の衆議院選挙が幕を閉じ、各党の議席配分が確定した。結果として、与党は一定の議席を維持しながらも、一部の選挙区では野党が健闘し、政治の潮目に変化の兆しが見えた。今回の選挙は、単なる政権選択にとどまらず、有権者が何を政治に求め、どのような未来を望んでいるのかを問い直す重要な機会となった。

低投票率に表れた政治不信

今回の選挙で最も注目されたのは、やはり投票率の低さである。有権者の関心は一部の争点に集中したものの、全体としては盛り上がりを欠き、若年層を中心に「投票しても変わらない」という諦めが蔓延していることが浮き彫りとなった。特に、政治とカネの問題、社会保障制度の先行き、経済格差の拡大といった、根本的な不安が払拭されないまま選挙戦が進行した点は、政党にとって深刻な課題だ。

選挙は民主主義の根幹であり、主権者たる国民の声を政治に反映する唯一の手段だ。投票率が下がるということは、その機能が劣化していることを意味し、政治の正統性自体が問われる事態にもなりかねない。政治家や政党には、政策の内容だけでなく、その伝え方、そして政治の透明性と信頼性を高める努力が求められている。

政策論争の乏しさ

選挙戦を通じて、多くの候補者が「経済再生」「子育て支援」「防衛力強化」といったキーワードを掲げたが、具体的な財源論や政策実行力についての踏み込んだ議論はあまり見られなかった。テレビ討論や政見放送も、形式的な応酬にとどまる場面が多く、有権者にとっては比較判断が難しかったのではないだろうか。

特に注目されたのは、社会保障制度の持続可能性についての議論である。高齢化社会の進展に伴い、年金・医療・介護といった社会保障費は増大している。一方で、少子化に歯止めがかからず、働き手の減少によって税収基盤は縮小傾向にある。こうした構造的な問題に対し、どの党も明確なビジョンを提示しきれていなかった点は、今後の政策運営に対する国民の不安感を残す結果となった。

地方と都市の温度差

今回の選挙では、都市部と地方部で投票行動に大きな温度差が見られた。都市部では無党派層や若者を中心に、変革を求める声が野党に集まりやすかった一方、地方ではこれまで通りの与党支持が根強く残った。これは、地域によって政治に対する期待や課題の感じ方が異なることを示しており、中央政府が一律の政策で全国をカバーしきれない現実も浮き彫りにしている。

地方創生、人口減少対策、公共交通の維持など、地域に根ざした課題への具体的なアプローチが求められる中、国政レベルでの政策立案と地方の実情との乖離が改めて問われる。政治が国民全体を視野に入れつつ、地域ごとのきめ細やかな政策対応をどのように実現していくかが、今後の大きな課題となる。

政党再編の可能性

選挙後、各党内では今後の進路を巡ってさまざまな動きが見られている。特に、野党陣営では今回の選挙で一定の手応えを得たことで、再編や政策協調の可能性が高まっている。一方で、理念や政策の不一致が依然として壁となっており、「反対のための共闘」に終始する危険性もある。

与党にとっても、議席減という結果は看過できない警告である。選挙後の政権運営において、国民との対話を重視し、説明責任を果たす姿勢が求められる。安定多数に依存した「数の力」の政治から、実質的な議論と合意形成の政治へと脱皮できるかが問われている。

民主主義の本質を見つめ直す契機に

選挙は終わった。しかし、それは政治参加の終点ではない。むしろ、ここからが始まりである。選ばれた政治家に対して、私たち市民が監視し、対話し、時に批判することで、民主主義は機能する。メディアの役割もまた重要で、単なる政局報道にとどまらず、政策内容の検証や市民の声の代弁を通じて、政治と社会をつなぐ架け橋となるべきである。

私たちがより良い未来を手に入れるためには、政治を「誰かのもの」ではなく、「自分たちのもの」として取り戻す意識が不可欠だ。その第一歩が、投票という行動であり、今回の選挙がその意識の転換点となることを願ってやまない。

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