【自由で開かれたインド太平洋戦略】❽
歴史学者であり、日本史研究者でもあるジェイソン・モーガン氏は、安倍氏のことを以下のように評している。
米『タイム』誌は毎年、「パーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)」を選出している。同誌がその年の最も重要で顕著な人物やイベント、運動などを選び、表紙に載せる。2022年はウクライナのゼレンスキーが選ばれた。たしかにこの年はロシアのウクライナ侵攻が起きた年であり、同誌がゼレンスキー大統領を選出したのは当然だったのかもしれない。
しかし、もし一年だけでなく、一世紀単位での「パーソン・オブ・ザ・センチュリー(今世紀の人)」を選ぶとしたら、私は迷わず安倍氏を選出しているだろう。
安倍氏を理解するには、一年だけで考えるのは無理である。百年、一世紀の規模で考えなければ、安倍氏の存在意義は見えない。安倍氏は二十一世紀で最も重要な人物であり、「今世紀の人」に選出されてしかるべき存在なのだ。
それは安倍氏が、起きた戦争への対応ではなく、まだ勃発していない未来の戦争に備えたことが大きな理由だ。事後に動くことと、事前に動くことでは、その意味合いはまったく違う。
ゼレンスキー大統領は、ロシアによる侵略に対し立ち向かい、戦いをリードして、歴史の舞台で輝く存在だ。しかしその舞台は、あくまですでにそこにあったわけだ。
他方、安倍氏は戦争がくることさえ信じない平和ボケした日本人の目を覚まし、「ファシスト」「軍国主義者」「歴史修正主義者」などのレッテルを貼られながらも、国を強くして守るという大義を果たそうとした。
地政学的なビジョナリー(先見性のある人)であったし、戦略の才を評価せざるを得ない。複雑な世界の動きを解読し、未来の瀬戸際に備えて万全な準備をすることは、ステーツマン、偉大なる為政者そのものだ。