3月29日早朝、北朝鮮が日本海に向けて短距離ミサイルを発射。2発が日本の排他的経済水域外に着弾しました。北朝鮮による同様のミサイル発射事案は、3月に入って4度目です。
【ミサイル発射や軍事行動にメッセージ性が強まった金正恩時代】
もうこの投稿に興味を持って見てくださる様な海外情勢を常に関心持っておられるみなさんには自明のことでしょうが、核開発やミサイル発射、時には限定的な軍事攻撃(韓国「天安艦沈没事件」、延坪島砲撃事件など)を北朝鮮が行うのは、決して気まぐれではありません。それぞれの行動には相手を意識したメッセージが込められています。
特に、先代の最高指導者=金正日の時期の核実験やミサイル試射で原初的(重量がありやや大型な)核爆弾・弾頭が完成され、以降はより長射程な弾道ミサイルの開発作業(射程6000キロまでは完成の模様)とあわせてストック分のミサイルからメッセージを込めた発射が時に行われてきました。
【危険な軍事挑発で後継指導者としての“権威“を示した金正恩】
特に金正日時代末期、後継者として息子の金正恩にスポットが当てられて以降、軍事行動には強いメッセージ性が込められるようになりました。その典型が2010年に相次いだ「天安艦沈没事件」(3月26日)と「延坪島(ヨンビョンド)砲撃事件」です。
このうち後者は「砲兵戦術の天才」となぜか当時、北朝鮮プロパガンダ報道で称揚された金正恩が指揮をとったとされています。
韓国西海岸側の海上軍事境界近くの群島の一つである延坪島には韓国陸軍の演習場があり、当時、米韓合同演習が全土規模で展開される中、ここでは韓国の155ミリ自走榴弾砲部隊が砲撃演習中でした。この島に突如、近隣の北朝鮮側の島から120ミリ多連装ロケット砲弾およそ160発が奇襲的に降り注ぎ、漁港市街地と演習場に着弾。韓国側は軍人、民間人合わせて4名が死亡し、19名が負傷しました。
韓国軍自走榴弾砲部隊は演習から直ちに反撃に移り、当初「北朝鮮側に大損失を与えた」と発表しましたが、最近、砲撃の成果は確認されていないことが明らかになりました。後に北朝鮮報道では「金正恩領導者の非凡な知略と戦術で敵の挑発は挫折し、延坪島は火の海になった」(「労働新聞」2012年2月16日)とされています。
しかし、この時の北の行動はもう一つの重要な動きを引き出しました。2009年まで繰り返された北朝鮮の核実験強行に対し、国際社会に経済制裁が広がっており「同盟国」の中国まで北への食糧提供を大幅に減らしてました。
実は2010年夏から異常気象に起因してロシアで大山火事が発生し秋まで鎮火せず、同国が穀物輸出をストップさせたため、国際的な穀物価格が高騰し、北には制裁の広がりと共に二重の危機を招来したのです。
北は中国に対して、穀物の特別支援を要請していましたが、胡錦濤政権はしぶり続けました。その最中に、中国遼寧省から近い黄海側の延坪島で軍事挑発を引き起こしたのです。この「一触即発」事態に驚いた中国は、直ちに穀物支援を再開しました。
私たちから見れば、狂気の沙汰です。しかし、金親子の「瀬戸際」戦術が強いメッセージを中国などに与え、北朝鮮の危機が一時的でも打開されたのです。韓国にとっては、踏んだり蹴ったりでしたね。
【短射程は韓国・文政権への強いメッセージ】
その後、大陸間弾道ミサイル開発の中断を取引材料にトランプ大統領との直接対話を実現させた金正恩は、アメリカには刺激の少ない短射程ミサイルの発射で韓国を揺さぶるようになります。
韓国にとって、北朝鮮からの最大の軍事的脅威は、首都ソウルをはじめほとんどの主要都市を射程に収める短射程ミサイルや長距離火砲(175ミリカノン榴弾砲、大型多連装ミサイルなど)です。これらの発射演習を指導者自らの「現地指導」のもと繰り返す北が韓国に対して求めているものは、目に見える形での経済・食糧支援です(現在、「現地指導」の映像は健康を壊した金正恩の替え玉で、最高地位で指揮を執るのは妹の金与正と見られます)。
日本海で日本にとって脅威度の低いEDZ外へ着弾させる北朝鮮のミサイルには、そんなメッセージが込められているのです。