先日、外食大手のペッパーフードサービスが、ステーキチェーン「ペッパーランチ」事業の売却を検討していることが、各紙で取り上げられました。
ペッパーフードサービスは、「ペッパーランチ」事業と「いきなり!ステーキ」事業の2本の柱で成り立っています。「いきなり!ステーキ」事業については、急拡大の後遺症から大きな赤字を計上し続けている一方で、「ペッパーランチ」事業は着実に黒字を計上し続けている優良事業となっています。このような優良事業を切り売りする、というニュースがマスコミ各社に報じられたのです。会社側はまだ確定した情報ではないと否定しましたが、このような話が出てくること事態、異常な状態となっている証拠です。
新型コロナウイルスの影響を受けて、飲食店については一部の会社を除き、軒並み厳しい状況となっていますが、ペッパーフードサービス(特に「いきなり!ステーキ」事業)については、新型コロナの影響が出てくる前から、既存店の売上高が前年同期比30%〜40%減少するという状況でした。飲食店は損益分岐点がかなり高いため、数%売上が減少すると赤字に転落する業態なのです。いかに「いきなり!ステーキ」事業が厳しい状況かお分かりだと思います。
そこに今回の新型コロナの影響です。新型コロナの影響で、4月・5月の既存店の売上は前年同期比で50%〜60%減少です。私も度々「いきなり!ステーキ」は利用しますが、現在はソーシャルディスタンスを取りながらの営業であり、V字回復というのは当面見込めないと思います。
また同社については、昨年末の段階で、流動資産(現金預金・売掛金・未収入金)が63億円であるのに対して、流動負債(買掛金・1年以内返済予定の借入金・未払金)が108億円となっており、キャッシュが45億円不足しています。自己資本比率は2.5%、間もなく債務超過に陥ってしまう水準です。
同社はこの不足分を増資によって対応しようと、第三者割当増資で対応しようとしましたが、見事失敗。これで不採算店からの撤退、構造改革に着手する資金もない、という状況となっていたのです。
既に詰んだような状況で同社が打った手が、優良事業である「ペッパーランチ」事業の分社化とエスフーズの村上社長個人からの20億円の借入です。この借入は期限が7月末までとなっており、通常であれば返済は不可能です。そこで囁かれていたのが、「ペッパーランチ」事業のエスフーズへの売却でした。
今回のニュースでは、売却価格は100億円前後ではないかと推測されており、この資金をもとに不採算事業である「いきなり!ステーキ」の再建を図るということですが、現状はこうした資金も焼け石に水となるのではないかと考えます。昨年末で45億円の資金不足だとすると、現段階では更に資金不足は悪化しているでしょうから、赤字の補填や不採算店からの撤退であっという間に資金が溶けてしまうと思います。
事業売却のニュースが出てから、先週末に同社の株価はストップ高となりましたが、同社は完全なギャンブル銘柄となりました。奇跡の一手が出てこない限りは、経営的にはジリ貧だと思います。
今回はペッパーフードサービスを取り上げましたが、これから飲食業界はこのような事業再編が続くことになると思います。日本中どこに行っても、チェーン店だらけというのは少々味気ないものですが、これもコロナ後の世界の一つの象徴的出来事なのかもしれません。