一般社団法人 全国個人事業主支援協会

COLUMN コラム

  • サステナブル・ツーリズム2.0:再生型リゾートが描く投資の新潮流

世界的に「持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)」が注目されてから久しいが、近年ではその概念がさらに進化しつつある。
単に環境に優しい取り組みを行うだけではなく、「自然や地域社会を再生させること」を目的とした “Regenerative Tourism(再生型観光)” という新たな潮流が、観光投資の世界で存在感を強めている。

外資による観光投資が、いまなぜこの「再生」をキーワードに動いているのか。
そしてその流れが日本にどのような形で波及しているのかを考察してみたい。


🌿 1. “守る”から“育てる”へ ― 世界で進む再生型ツーリズムの台頭

これまでのサステナブル・ツーリズムは、自然環境への負荷を減らし、地域文化を保全する「守りの姿勢」が中心だった。
しかし近年、欧米の先進リゾートや投資家の間では、「旅行者や投資が地域を豊かにする」ことを目指す新しいモデル――すなわち**“再生型ツーリズム”**が注目されている。

たとえば、ハワイの「ハナ・マウイ・リゾート」では、宿泊費の一部が地元の海洋保全活動に直接寄付され、滞在そのものが環境再生を支える仕組みとなっている。
北欧やニュージーランドでは、リゾート開発に際し、伐採した樹木の倍以上を植林する「ネイチャーポジティブ(自然をプラスに転じる)」開発モデルが一般化してきた。

これらの取り組みは単なるCSR活動ではなく、事業そのものに再生を組み込む新しいビジネスモデルとして位置づけられている。


💼 2. ESG投資が観光業を変える ― 外資が注目する「リジェネラティブROI」

外資ファンドやインパクト投資家の間では、ESG(環境・社会・ガバナンス)基準が投資判断の中核を占めるようになっている。
特に観光業は、「環境への影響」だけでなく「地域社会への貢献」を測ることができる数少ない産業であるため、ESG投資との親和性が非常に高い。

最近では、“Regenerative ROI(再生型投資リターン)”という概念が生まれつつある。
これは単なる金銭的リターンに加え、「環境改善度」や「地域住民の所得向上率」など、社会的価値の創出を数値化して評価する仕組みだ。
投資家はもはや「どれだけ儲かるか」だけでなく、「どれだけ地域に良い変化をもたらすか」を見るようになっている。

こうした潮流の中で、外資系ホテルブランドや投資ファンドは、持続可能性レポートの中に「地域再生指標」を明確に掲げ始めている。
その結果、“自然を消費する観光”から、“自然を再生する観光”へという転換が、投資の世界から現場へと確実に広がっている。


🏞️ 3. 日本市場への波及 ― 「再生」を軸にした地方リゾート投資の拡大

日本においてもこの潮流は確実に形を帯びてきている。
特に、外資が注目するのは「地域資源を活かした再生型リゾート」である。

たとえば、長野県白馬村では、海外資本によるブティックロッジやサステナブルヴィラの開発が進み、森林保全や地域農業との連携を軸にした滞在型プログラムを展開している。
また、奄美大島や屋久島では、外資と地元企業が協働し、再生可能エネルギーや自然体験を取り入れたエコリゾート開発が進行中だ。

これらの事例に共通するのは、「外資×地域」の協働モデルである。
資金とノウハウを持つ外資が、地域固有の文化や自然資源をリスペクトしながら、共に事業を育てていく。
それが地域雇用を生み、観光と生活の境界を溶かす新しい観光地の姿を形成している。


🧭 4. 再生型リゾートがもたらす地域への連鎖効果

再生型ツーリズムの特徴は、経済効果が宿泊施設の外へ広がっていく点にある。
地元の農産物を使ったレストラン、伝統工芸を取り入れた内装、地域ガイドによる体験プログラムなど、あらゆる活動が地域経済の循環を生み出す。

たとえば、北海道ニセコ地域では、外資による高級リゾート開発を契機に、地元の食材ブランドや体験ビジネスが次々と立ち上がっている。
また、京都の古民家再生宿泊事業では、外資が改修資金を出資し、地元職人が建築や運営に携わることで、伝統建築の継承が進んでいる。

このように、「観光=地域経済の触媒」として機能することこそ、再生型投資の真価といえる。


🌏 5. 日本が直面する課題とチャンス ― 観光を「国土再生産装置」に

とはいえ、日本における再生型観光の普及には、いくつかの課題も存在する。
制度面では、再生エネルギー導入や自然環境保全活動に対する税制優遇が十分ではなく、ESG投資の評価指標も欧米ほど整備されていない。
また、地方では人口減少により、再生の担い手となる人材確保も課題となっている。

一方で、これらは裏を返せば大きなチャンスでもある。
外資がもたらす資金・テクノロジー・マネジメントノウハウを、地域の想いと結びつけることで、観光が「国土再生産装置」として機能する可能性がある。
再生型リゾートは、観光業を単なるサービス産業ではなく、地域の未来をつくる社会基盤へと進化させる力を持っている。


🔮 6. 結語:観光投資の次なるステージへ

「サステナブル・ツーリズム2.0」とは、環境や地域を“守る”段階を超え、**“再び息を吹き込む”**段階へと移ることを意味する。
外資の視点から見ても、再生型リゾートへの投資は「社会的責任」と「中長期リターン」の双方を実現する新たなフロンティアである。

これからの観光投資の成否は、単なる収益モデルの巧拙ではなく、
「その地域が再び輝きを取り戻すかどうか」にかかっている。
資本と地域、自然と人が共生する――そんな未来を描けるリゾートこそが、これからの世界に選ばれる投資先となるだろう。


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