一般社団法人 全国個人事業主支援協会

COLUMN コラム

「武器としての資本論」(白井聡著)という本を読みました。
今、書店に行くとビジネス書の棚に平積みにされている真っ赤な表紙がよく目立つ本です。
ビジネス書としてカテゴライズされ売り出されているようですが、この本はカール・マルクスの「資本論」の入門書であり、
学術書、政治経済本としての側面も持っています。
内容は、働き方やお金の稼ぎ方から資本主義の分析にまで及んでいて、なかなか面白かったので少しご紹介します。

この本の中で、事例として「セブンペイ」問題が取り上げられています。
不正アクセスを引き起こし短期間の内に撤退となったあれです。
著者はこの問題をこう要約しています。
セブンイレブンは小売り業なのでシステム開発をおそらく自分たちでやっていない。
どこかのIT企業に丸投げして、厳しい納期を言い渡しているようだ。
さらに注文を受けた側と発注側の力関係は対等ではない。
全国に販売網を持つセブンイレブンは圧倒的な優位な立場に立ち、無茶な納期、厳しい受注価格を言い渡した可能性が高い。
注文を受けたIT企業は、現代のプロレタリアアートであるIT技術者の人達を作業に駆り立てて、短期間で無理矢理作り上げる。
しかし、出来上がったシステムは欠陥だらけで、セキュリティホールをつかれてやられてしまった。
こういう展開です。

これを「資本論」の用語を使って分析すると次のようになります。

「とにかく剰余価値が生産できないと、資本主義は持続できないわけです。ところが次第に剰余価値を生産する手段がなくなってきている。
そこで、資本の側は、労働者に長時間労働を強いたり、人件費をカットするといった形で、無理に剰余価値を生産しようとする。
その歪みが、社会の端々に現れています。」
(P172)

剰余価値とはいわゆるもうけのことです。そして剰余価値は二種類あって、それぞれ相対的剰余価値と絶対的剰余価値と言います。
簡単にいうと、前者はいわゆるイノベーションによって生産性をあげて利益を確保すること。後者は、コストカットによる利益確保です。
この「セブンペイ」問題は、無理な形でも剰余価値を追い求め続けねばならない資本制社会のひとつの帰結なのかもしれません。

最近というか結構前から、この手の日本企業の不祥事は多い気がしますね。

この本の魅力をひとつ挙げるならば、日常の瑣末な出来事や社会問題をマルクスの「資本論」に一気に接続するダイナミックさにあるのだろうと思います。
この資本主義社会に生きる住人として、なかなかに一読の価値がある本です。
私は面白かった。皆さんもいかがでしょうか。
ちなみに私は「資本論」自体は読んだことがありません。

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柳 明宏

ネットワークエンジニア。

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