ダル湖の船上ホテルには僕の他に西洋人の若いカップルと、一人旅の日本人の女性がいた。話を聞くと皆、同じ手口で騙されてここに来たことが分かった。僕以外は皆、1週間以上船上ホテルで足止めを食らっており、どうしたらカシミールから出られるか手探りの状態だった。船上ホテルの家族どもは、旅行者に金を使わせることにしか興味はなく、とにかく毎日のように物売りが部屋に押しかけてきて、土産物を買わせようとする。
最初の数日は物珍しさもあり、そこそこ船上ホテルの生活を楽しんだが、いい加減飽きてくるのであった。僕らが飽き飽きしている所に付け込んで、オーナーはしきりとトレッキングに行くことを勧めてくる。始めのころは断っていたが、毎日毎日となると断るのも面倒になって、結構な金額を支払って、トレッキングを了承した。
聞けば、ジープで数時間走った”パハルガム”という村でポニーに乗り換え、数日間かけてカラコルム山脈の山の中を、テントや山小屋に泊まりながらうろつく、とのことだった。僕と西洋人カップルが参加することとなり、僕らはジープでパハルガムへと向かった。
村ではガイドとポニーが準備されており、5分ほど馬に乗る練習をして”さあ、出発”という雑さであった。僕は初めての乗馬であり、馬のほうも初心者を馬鹿にして言うことを聞かないため、大変怖い思いする羽目になった。
山の中の道はポニー一頭がやっと通れる広さであり、場所によっては目も眩むような崖の道を通ることもある。高度で言うと3000m以上の森林限界線を越えるような場所である。言うことを少しも聞かない僕の馬は、何故かしきりと前を行く馬を追い抜きたがり、僕はこの仔馬に殺されてしまうのか?!!と心底不安であった。
2日目あたりからは、ほんの少し慣れてきて、僕も落ち着きを取り戻したが。
初日は山小屋に宿泊。そこで初めて西洋人カップルと、”英語で”話をした。男性はエリック、女性はジェノービアという名前で、二人は旅の途中で出会い、そのまま一緒に行動しているという。二人ともいい人で、僕の拙い英語に辛抱強く付き合ってくれた。その夜の話で、二人も僕と同じようにニューデリーの旅行会社に騙されてカシミールに来たことが分かり、お互い距離がぐっと縮まった気がした。
数日かけ無事トレッキングも終わり、パハルガムから再びジープでダル湖に帰る途中のこと。多くの車が渋滞して足止めを喰らっている。軍人がやって来て所持品の検査をされた。聞けば、この先の道路に地雷が仕掛けられているとのこと。毎度毎度ヤレヤレである。。。