拉致を認めて被害者を帰国させたい日本と、何とか経済援助を引き出したい北朝鮮。
会談が始まると、北朝鮮側は、拉致など存在しないという姿勢で来た。にべもない。
昼休憩に入り、控え室で話し合う日本側だが、この時のやり取りが、安倍晋三という名前を広く世に知らしめることになる。
部屋には盗聴器が仕込んであることを見越した安倍官房副長官。わざと大きな声で、
「総理、向こうが拉致を認めて謝罪してこないなら、テーブルを蹴って帰りましょう!」
と言う。
そして午後の会談が始まるや、金正日は拉致があったことを認めて謝罪してきたのだ。
先ほど述べたように、全てを上か下かに位置付けてみる朝鮮人の気質からして、謝罪するということは下になると言うことだ。
神格化された金正日が謝罪するなど、あり得ないことなのだ。いかにこの謝罪が異例の、大きな意味を持つものなのか分かろうというものだ。それだけ、北朝鮮は追い詰められていたのだ。
いや、追い詰められていることを見越した安倍氏の勝利であったということだ。
安倍氏は結果、5人の拉致被害者を帰国させることに成功する。長く、「拉致など存在しない」という常識に終止符が打たれた歴史的な瞬間であり、拉致問題に、中川昭一氏、西村慎吾氏らと共に誰よりも先んじて取り組んできた安倍氏の取り組みの成果であり、被害者の全員奪還という使命の新たなスタートの瞬間でもあった。