モノクロの町で育った少年は、いつも自分の中に「半端な心」と
「強くなりたい」という想いを胸に秘めて育ちました。
3歳の頃… それまで小さな狭い2DKの部屋に家族5人で暮らした借家から、広い5LDKの夢のマイホームへ引っ越すことに何故か寂しさを感じた少年は、お気に入りのおもちゃの電動スクーターでたった30メートルだけの家出をしました。
それが生まれてはじめての「家出」というものでした。
やっと広い家にも慣れてきた幼稚園になると、背が低くて体の小さい少年は甘えん坊な性格からか、それとも幼なじみのお姉ちゃんのようなマリちゃんの後をいつもくっついていたからか「いじめられっ子」になってしまったのです。
きっとそれが始まりで、幼稚園の砂場でお友達らが遊んでいると、
「こっち来なよ~!!一緒に遊ぼ~!」
というお誘いに、嬉しさのあまり少年は喜び走って砂場へ行くと…
「バッシャーン!!」
そこは彼らの縄張り・・・
砂場に深い穴を掘り、大量の水を入れて木の枝と新聞紙などでふさいで、その上にさらに砂をかけた「落とし穴」が仕掛けてありました。
「騙された」少年は、周りにいた同級生のお友達みんなに笑われていることに、不思議と悲しさを抱くよりも、「みんなと一緒になりたい」という気持ちの強さから、ずぶ濡れになった少年も一緒になって大笑いしました。
小学生に上がった入学式。
甘えん坊、泣き虫で背の小さな少年と対照的に、 背が高く身体も1番大きいアメリカ人と日本人のハーフの男の子「けん君」と出会いました。
憧れというかカッコよく見えた「けん君」のお父さんは、東京オリンピックで柔道の金メダリストという教科書にも載っている「岡野功さん」という偉大なお父さんで、少年のお母さんと仲がよかったからか、けん君とは自然とすぐに仲の良いお友達になりました。
毎朝、そして休み時間と、決まってみんなで遊んでいたことは、ドッチボールか当時流行っていたアニメ「セイント聖矢」ごっこでした。
少年はみんなより背が低いことからいつも「ヒョウガ」という脇役のキャラクターで、けん君は1番強い主役の「セイヤ」がお決まりの設定でした。
ある日少年は、
「何でいつもけん君ばっかりセイヤなんだ」
と聞いてみました。
そしたらけん君は、
「俺が1番強いからに決まってるだろ。セイヤになりたいなら俺と決闘して勝ったらだな」
放課後、小学校の隣の公園の砂場で、友達(まーちゃん)の他に見物者なしで決闘となったのです。
お互い「約束の決闘の時間」に公園へ行き、自転車のスタンドをかけずにガッシャーン!!
と乗り捨てた音をゴングに「決闘」が始まりました。
「かかってこいよ!」というけん君に、
「やってやるよ!!」と少年…
そりゃもう本気の決闘でした。
背の小さい少年は、一瞬でけん君に一本背負いで投げ飛ばされ、
「まいったか!!」とけん君。
「まいっ…てはない…」と少年の負け。
しかしその日から、少年の度胸が友達みんなに認められ、
学校でも「けん君グループの中にいる小さい奴」という、
少し今までよりも目立つ存在になったのでした…
いつしか身長も大きくなり、中学生になると、短ラン&ボンタンを着た目立つ先輩達に憧れ、「けん君グループ」の少年達も気がつくと「劣等性」というレッテルを貼られたグループになっていました。
バイクに興味を持って夜遊びしたり、消火器を撒き散らしたり、他校生と喧嘩もする。
しかし、どんどんエスカレートしていく流れに、誰よりもいち早くストップをかけたのはけん君でした。
そんなけん君にストップをかけさせたのは、プロサッカー選手になるという彼の夢があったからでした。
中学2年の半ばから毎日放課後、部活が終わって夜になるとマラソンをし、龍ケ崎二校の山(階段)を往復20本。
ちょうどその頃、少年がやっていたギター(趣味)を「夢」という漠然としたものに置き換えたのは「音楽」でした。
「やり場のない」毎日に違った目標でも、その中に希望を持つということで、
少年も一緒になって毎晩、けん君とマラソンすることになったのです。
雨の日も台風の日も、嵐や雷でも、ほとんど音楽とは関係のないマラソン。
それは、二人が中学校を卒業する日まで続いた、唯一の日課でした。
中学校卒業式の前の日の夜、いつものコースを走り終わった二人が立ち止まった場所は、その先に昔「決闘」した公園が見える小さな橋でした。
その橋の下には「大正堀」というまるでドブの様な川が流れています。
そこで最後の夜、けん君と少年は約束を交わしました。
「俺は卒業したらすぐオランダに行く。絶対プロのサッカー選手になるから。」
「俺はとりあえず高校へ行くわ。歌手になるよ。絶対プロのミュージシャンになるわ。」
「じゃあ、成人式にはお互いプロとして会おうな。約束だ。」
約束の日、カッコよくけん君はプロサッカー選手になって成人式に表れました。
少年は地元で遊んでばかりで音楽は“一応”という感じ。
悔しさで約束を果たしたけん君を上手く祝福することができなかった少年は上京し、
無我夢中でがむしゃらに日常を音楽に切り替え、成人式という「約束の日」から1年遅れでプロデビューを果たすことになりました。
出版社から本も出版され、CDも全国で発売されました。
あの橋の上で約束を交わした夜から丸18年、
現在はお互いまったく違う人生を歩んでいる。
そうやって、そんな青春時代を過ごし「ごとう光秀」と「岡野けん」君は育ちました。
色褪せたわけじゃなく、黄昏たわけでもない。
まったく違うものに、あの頃見た大人達の様に、
よくあるみたいに、たまたま別のものに変わっただけ。
けん君はアメリカでサラリーマン。
そして、結婚して子どもが生まれたみたいだ。
僕も結婚して子供に恵まれ、地元で自営業を営み、
そしてダサい政治家の脱却を目指し何とか頑張っている。
二人の「夢」は終わったわけではない。
今だって“政治家”という大きな付託の中で、
色んな未来のカタチを描き夢を作り始めているし、
相変わらず今もまだ時々、大好きな音楽をやっている。
どんな形になるか、そしていつになるかはまだ解りませんが、
次は僕が人生の中で「けん君」をやっつける番だと心のどこかで勝手に目標にしているのかもしれない。
他人からすれば、単なる男の意地なのかもしれないだろう(笑)
だけど、心の底から子供達や若者たちにはそんな風にして「大人」になってほしいって本気で思っているんですよ。