長年、ウォーターフォールモデル(段階的な開発プロセス)を採用していた企業が、近年ではアジャイル開発に移行するケースが増えてきています。アジャイルは柔軟性があり、迅速なフィードバックを重視した開発方法ですが、ウォーターフォールからアジャイルへの移行は決して簡単なものではありません。この記事では、実際にウォーターフォールからアジャイルに移行した際に直面した課題と、それを乗り越えるためのアプローチを共有します。
ウォーターフォールとアジャイルの違いは、単に開発の進め方だけでなく、チームの文化やマインドセットにも大きな影響を与えます。ウォーターフォールは計画とドキュメントに基づいた進行が重視され、明確なステップで進めることが求められます。しかし、アジャイルでは「柔軟性」や「反復的な改善」が重要視され、毎スプリントごとの評価と調整が行われます。この変化はチーム全体にとって大きなシフトです。
ある企業では、ウォーターフォール開発に慣れたメンバーが「計画通りに進めないのは不安だ」「途中で変更が多すぎて落ち着かない」と感じる場面が多くありました。特に、初期の段階で大まかな設計と仕様が決まっていないことに対して不安が広がったのです。
対策
アジャイルの「失敗から学ぶ」文化を強調し、チームに反復的な改善と柔軟性の重要性を伝える。
チームメンバーと一緒にアジャイルのメリットや成功事例を共有し、安心感を与える。
ウォーターフォールでは、開発初期に詳細な計画を立て、その計画に基づいて進捗を追うのが一般的です。一方、アジャイルでは短期間のスプリント(通常2~4週間)ごとに目標を設定し、進捗を頻繁に評価します。これにより、従来の進捗管理方法が通用しなくなり、混乱が生じることがあります。
進捗を可視化するために、スクラムボードを使い始めたものの、最初は「どのようにタスクを分割するか」や「どのタイミングでレビューすべきか」など、ルールが不明確で混乱が生じました。また、アジャイルのスプリントを管理する上で、過去のウォーターフォール型の大規模計画の進捗管理方法をそのまま当てはめてしまい、結果として混乱を招くこともありました。
対策
スプリントごとにタスクを細かく分け、進捗が見えやすくなるように工夫。
チーム内で「アジャイルのプロジェクト管理」に関する教育を行い、スプリントレビューや振り返りをしっかりと実施。
ウォーターフォールでは、最初の要求定義をじっくりと行い、その後は顧客とあまり頻繁にコミュニケーションを取ることなく開発が進んでいきます。しかし、アジャイルでは顧客との継続的なやり取りが必須となります。これが顧客にとっても開発チームにとっても新たな挑戦となります。
初めてアジャイルを導入した際、顧客側が「週単位で進捗報告を求められるのは忙しすぎる」と感じ、最初は抵抗がありました。また、アジャイルの途中で仕様変更が頻繁に行われることに対して、「予算や納期が間に合うか不安だ」と感じる顧客も多くいました。
対策
顧客とアジャイルのフローを共有し、なぜ頻繁にフィードバックを求めるのかを説明。アジャイルの目的が顧客満足度を向上させることにあることを伝える。
定期的に顧客とのコミュニケーションを設け、リリース後の改善ポイントをすぐに反映できるようにする。
アジャイル開発では、チームメンバー一人一人が自律的に動き、より積極的に関与することが求められます。ウォーターフォールでは、プロジェクトマネージャーやリーダーが中心となって進行を管理していましたが、アジャイルではスクラムマスターやプロダクトオーナーの役割が重要になります。
最初、ウォーターフォールに慣れていたプロジェクトマネージャーが、アジャイルではチームの指示役ではなく、サポート役としての立場になることに困惑していました。また、メンバーが自己管理を重視することに戸惑い、最初は積極的に意見を出すことが少なかったケースもありました。
対策
スクラムやアジャイルの基本的な役割分担を明確にし、各メンバーにその重要性を理解してもらう。
チームメンバーに対して、積極的な意見交換を促し、自己管理の重要性を強調する。
アジャイルは小規模なチームでの運用には非常に効果的ですが、大規模なプロジェクトにアジャイルを導入する場合、スケーリングの問題が生じることがあります。複数のチームでの調整や、プロジェクト全体の進捗管理が難しくなる場合があります。
複数のチームが同時に作業を行っている場合、スプリント間での調整やリリース時期の調整が難しく、全体としての進捗が見えづらくなるという課題がありました。例えば、異なるチームが依存関係を持つタスクを同時に進める場合、それぞれの進捗が遅れると全体のスケジュールに影響が出てしまうことがありました。
対策
スケーリングアジャイルフレームワーク(例えば、SAFeやLeSS)を導入し、大規模プロジェクトの調整をしやすくする。
定期的な「全体の振り返り」を行い、各チームが直面している課題を共有し合う。
ウォーターフォールからアジャイルに移行する過程で直面した課題は多岐にわたりますが、その一つ一つが新しい発見と成長の機会を提供してくれました。最初は戸惑いもありましたが、アジャイルの柔軟性やスピード感を体験するうちに、その魅力を実感できました。今後、さらにアジャイル開発の適用範囲を広げるためにも、これらの課題を乗り越え、チーム全体で学び続けていくことが重要です。