一般社団法人 全国個人事業主支援協会

COLUMN コラム


はじめに:迫るエンジニア不足とAIの台頭

今後、日本ではエンジニア不足がさらに深刻化していくと予測されています。その中で、未経験者を育成して現場に投入する動きが求められる一方、AIの進化により、未経験者が担当してきたルーチンタスクの多くが自動化されつつあります。

このような状況は、未経験者にとって「実務経験を積みにくい」環境を生み出し、企業側にとっても「育成にリターンが見えにくい」構造的ジレンマをもたらします。育成にはコストと時間がかかるうえ、人材の流動性が高い現代において、その投資が無駄になるリスクも無視できません。

AIがエンジニアリングに与える影響:両刃の剣

AIはソフトウェア開発における多くの業務を変革しつつあります。コード生成、バグ検出、テストの自動化、DevOpsの効率化などにより、開発サイクルは加速しています。

  • ジュニアレベルのコーディングタスクの自動化
  • コード品質とテスト精度の向上
  • プロジェクトマネジメントのAI支援

一方で、AIによってエントリーレベルのポジションが縮小される懸念も出てきています。ジュニアの求人が減少し、シニアの比重が高まることで、将来的な「人材のボトルネック」が生まれかねません。

育成の必要性と新しい育成戦略

AIが台頭しても、未経験者の育成は業界として不可欠です。そのためには従来のOJTやペアプログラミングだけでなく、AIを活用した新たなアプローチが必要になります。

1. AI補助型のOJT環境構築

AIと未経験者がペアを組む形式で、AI出力の監督や意図の理解を担わせることが有効です。これにより、単なる作業ではなく「設計思想」や「仕様解釈」など、実務的なスキルを早期に学ばせることができます。

2. ソフトスキルの重視

問題定義、チームコミュニケーション、顧客折衝などのスキルはAIに代替されない領域です。未経験者にはこうした領域に重点を置いた教育を施すべきです。

3. 学習と育成のパーソナライズ

ChatGPTなどを活用したパーソナライズ学習の導入により、個々の学習速度や理解度に合わせた育成が可能になります。標準的な研修だけでは補えない差を埋める手段として有効です。

4. 教える側へのインセンティブ

シニアエンジニアが育成にリソースを割くメリットを明示する仕組み(例:評価制度への組み込み)を設計することで、教育文化を根付かせやすくなります。

参考事例:すでに動き出している取り組み

■GitHub Copilot for Teams(Microsoft)
ジュニアに「AI出力をレビューし改善する役割」を持たせ、教育と実務の融合を実現。

■GoogleのEng Ladder
人材育成を昇進評価に組み込み、育てる文化を組織レベルで支援。

■スクラム+アプレンティス制度
未経験者をスクラムチームの一員として参加させ、実務を通じて育成。

終わりに:持続可能な育成戦略が未来をつくる

AIの進化により、短期的な開発効率は飛躍的に向上しています。しかし、それによって未経験者が育ちにくくなる状況を放置すれば、数年後にはミドル・シニア層の断絶が組織や業界に大きな損害を与えることになります。

育成はコストではなく「未来への投資」と捉え、AIを活用した柔軟かつ戦略的な育成体制の再構築が求められています。未経験者を排除するのではなく、彼らの成長を支える枠組みを「AI時代の前提」で設計すること。それが、技術者不足の時代を乗り越えるための急務となるでしょう。

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