馬に携わっていると必ず遭遇する症状が、疝痛(腹痛)である。お腹をしきりに気にしたり、前かきをしたり、ゴロゴロしたりと症状も様々。原因は多岐に渡り、その判断がその馬の生死に関わってくる。この投稿は私の備忘録として記録するものであり、今回、印象に強く残った症例を記録する。
最初の疝痛症状が起きたのは、午後の給餌が終わって2時間後。しきりに前かきをする。痛み止め投与と便秘改善薬投与で排便(ボロ)を促す。翌日にはボロの回数も増え採食もできたが、夕刻再び疝痛が起きる。心拍、体温は激しい状態ではないが、なかなか落ち着かず、点滴等でなんとか症状は緩和した。翌日も元気で採食量も徐々に増え順調かと思われたが、その1週間後、再び強烈な疝痛症状が起こる。七転八倒の激しいゴロを打ち、汗だくの状態。だが、ボロはする。左右の腹部聴診では小腸の蠕動音は聞こえ、大腸の蠕動音は減弱。打診音も異常なはなく、以前別の症例で腸閉塞を起こした馬の聴診とも違う。もし腸管の通過障害が起これば、その内容物が胃に逆流する。馬は嘔吐が出来ない動物であり、どんどん胃に内容が溜まれば胃破裂を起こし、その時点で予後不良となってしまう。そのため、疝痛の時は鼻からカテーテルを挿入し内容を除去するが、今回はほとんど逆流はなくガスが少量抜ける程度であった。痛み止めを投与してもほとんど効果がない。素早く二次診療施設に連絡し、すぐに開腹手術が出来るようにしてもらう。牧場から40分程度で到着し、診察室でも激しい疝痛症状が続く。エコーもはっきりと病態が確認出来ない。引馬し馬房に一度入れるもすぐに仰臥姿勢となる。その間に手術の準備をし、試験的開腹を迎えた。結果、大網と空腸に癒着が見つかり、大網の一部が破けた状態であった。幸いその穴に腸管が巻き込まれてダメージを受けた様子がなく、癒着部位の解除で済んだ。麻酔の覚醒も少し時間がかかったが、無事に手術は終了。現在は順調に回復している。
今回は癒着が原因の疝痛であったが、馬房で見せた仰臥姿勢の時、実は馬は少し楽そうであった。大網は胃と腸管を覆っている膜であり、仰向けになることで突っ張ていた緊張が緩み痛みが一時的に緩和していたという事かな。動物の行動には何かしらの意味がある。その意味を常に考えたい。