一般社団法人 全国個人事業主支援協会

COLUMN コラム

  • カットシーンにおけるライティングについて

物理ベースレンダリング(PBR)が標準となった現代のゲーム制作において、ライティングの指標は「物理的な正しさ」に置かれがちです。
しかし、物語の核心に迫るカットシーンにおいては、その正しさが時として表現の制約になります。窓から差し込む太陽光をエネルギー保存則に従って配置しただけでは、肝心の主人公の表情に落ちる影が沈みすぎたり、背景のディテールに視覚的なノイズが混じったりするからです。

ここで必要になるのは、現実を模倣する「シミュレーション」ではなく、演出のために物理を再解釈する「美しい嘘」の技法です。


実写映画の撮影現場を想像してみてください。

カメラが俳優のアップに切り替わるたびに、照明技師たちはライトの向きをミリ単位で調整し、レフ板を差し込み、瞳に命を宿らせるためだけに小さなキャッチライトを足します。
直前の引きのショットと物理的な整合性が取れていなくても、観客はその違和感に気づきません。なぜなら、客が求めているのは「光学的な正解」ではなく、その瞬間の「キャラクターの感情」だからです。

ゲームのカットシーンも全く同じです。ショットが変わるごとに、そのアングルで最もキャラクターが魅力的に見える位置へと、キャラクター専用の「ローカルライト」を仕込み直す。この手間こそが、ただのグラフィックスをドラマへと昇華させます。

技術的には、環境全体のグローバルイルミネーション(GI)やライトベイクによる安定した地明かりをベースにしつつ、カット単位で動的なポイントライトやスポットライトを「追い込み」として追加します。
例えば、キャラクターを背景から切り離すためのリムライトは、カメラの角度に合わせて法線方向を計算し、背景のライティングチャンネルとは分離してキャラクターだけに影響を与えるように設定します。また、肌の質感を生かすためにサブサーフェス・スキャッタリング(SSS)を強調する光の角度を探り、シャドウマップの解像度を特定のカットだけ引き上げることで、表情の微細な変化を影として焼き付けます。
たとえそれが太陽の光源方向と矛盾していても、その「嘘」がキャラクターの意志を強調するのであれば、それこそが演出上の正解となります。


ゲーム制作におけるライティングアーティストは、単に数値を入力するエンジニアではありません。
3DCG空間という仮想のロケセットの中で、監督の意図を汲み取り、シェーダーとライトを駆使して現場を駆け回る「照明技師」そのものなのです。
物理ベースという強固な土台の上に、あえて演出という名の「意図的な歪み」を重ねる。その職人気質なこだわりが、プレイヤーの心に深く刻まれる名シーンを生み出す鍵となります。

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